特定調停とは?元銀行員が分かりやすく解説します

債務整理の1つである、「特定調停」という手続きをご存知ですか?

これを行えば将来利息をカットすることができ、借金の負担を軽減できます。


ですが利用にあたって、注意点やデメリットも数多くあります。

ここでは特定調停を行う上で、知っておきたいポイントを解説します。


弁護士 郡司 理

この記事の監修者: 弁護士 郡司 理

都内法律事務所勤務を経て、2017年に弁護士法人日栄法律事務所共同代表 虎ノ門,池袋,町田にオフィス開設 取扱い分野は建築紛争、労働事件、ハラスメント対応など

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特定調停とは?キホンを解説します

特定調停とは

特定調停とは

「特定調停」とは、裁判所を通して将来利息を免除してもらう、債務整理の1つです。

裁判所が債務者と債権者の和解交渉を仲介するのが、大きな特徴です。


和解が成立すれば、将来利息や遅延損害金の免除、返済計画の見直しによって、債務者の借金負担が軽減されます。

返済計画は、3~5年の分割払いに見直されるケースが多いです。


一般的に任意整理など他の債務整理手続きであれば、弁護士に依頼することが多いです。

一方で特定調停の場合は、弁護士に依頼しても対応可能なことが限られており、特定調停が弁護士によって申し立てられることはあまりなく、本人申立がほとんどです。


「自力で直接債権者と交渉するの?」と不安に思った人もいるかもしれません。

ですが後ほど説明するように、裁判所の調停委員が交渉を仲介してくれるので心配はいりません。

特定調停の利用条件は?

特定調停の利用条件は、特定調停法(=「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」)で定められています。

借金のような「金銭債務」を負っていることに加え、以下のいずれかを満たしていることが条件です。

    ・支払不能に陥る恐れのある個人・法人
    ・事業の継続に支障をきたすことなく弁済期の債務を弁済できない個人・法人
    ・債務超過に陥る恐れのある法人


特定調停法第2条
この法律において「特定債務者」とは、金銭債務を負っている者であって、支払不能に陥るおそれのあるもの若しくは事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの又は債務超過に陥るおそれのある法人をいう。


1つ目の条件からわかるように、既に支払不能である必要はなく、将来そうなる可能性がある場合でも利用できます。

また条件として明示されてはないですが、「継続的な収入があるか」もチェックされます。


特定調停では将来利息と遅延損害金を免除してもらえますが、元金の返済義務が残るからです。

本当に返済能力があるかも、判断基準の一つになります。

条件を満たしていれば、個人だけでなく法人も特定調停が利用できます

特定調停の手続きで必要な書類は?

特定調停を行う上で、必要な書類は以下の通りです。

    ・特定調停申立書 2部(正本・副本)
    ・資産一覧表
    ・債権者一覧表
    ・収入印紙(1社あたり500円)
    ・郵便切手(1社あたり420円)
    ・資格証明書



この他、住民票のコピーや、給与明細なども必要になります。

必要書類は管轄する裁判所によって違うので、申立てを行う裁判所に事前に確認を取っておきましょう。

特定調停の流れは?

特定調停の流れは?

1.申立書の作成
上で紹介したような必要書類を作成します。

簡易裁判所の窓口に行けば、書式や費用について詳しく教えてもらえます。


2.申立書の提出
特定調停の申立て先は、債権者の所在地を管轄する簡易裁判所です。

債権者が複数いる場合は、管轄の最も多い簡易裁判所にまとめて申立てをします。


申立書は「正本」と呼ばれる裁判所用と、「副本」と呼ばれる債権者用の2部を提出します。

万が一の場合に備えて、自分用の控えも用意しておくことをオススメします。


3.債権者への通知
裁判所は申立てを受けて、債権者に特定調停の申立てがあったことを通知します。

債権者に通知が届いた時点で、債務者への取り立てがストップします。


通知を受けた債権者は、取引履歴などの書類を裁判所に提出します。

このタイミングで第1回の調停期日が設定されます。


4.第1回調停期日
裁判所は裁判所1名と、調停委員2名から構成される調停委員会を発足させます。

この調停委員が、債権者と債務者の仲介をします。


第1回調停期日では、債務者だけが呼び出されます。

調停委員が返済計画などについて事情聴取をし、返済可能だと判断すれば第2回の調停期日を設定します。


返済計画に実現性が乏しいと判断された場合、計画の再提出が求められます。


5.第2回調停期日以降
第2回の調停期日では、債権者も呼び出されます。

ただし債権者に出廷義務はないため、電話での交渉になるケースも多いです。


債権者が出廷した場合は、調停委員が個別にヒアリングをし、和解交渉を進めていきます。

債務者と債権者はそれぞれ別室に待機しており、債権者と対面するのは調停が成立した時だけです。


折り合いがつかなければ、また新たに調停期日が設定されますが、3回目で合意に達しなけらば不成立となる可能性が高いです。


6.調停調書の作成
調停が成立すると、合意内容を盛り込んだ「調停調書」が作成されます。

確定判決と同等の効力を持つため、調停調書の内容は必ず守る必要があります。


調停成立の見込みがない場合は、裁判所が折衷案として、調停に代わる決定
(「17条決定」)を出すことがあります。

17条決定も調停調書と同等の効力を持つため、それに従って返済を進めることになります。

民事調停法17条(調停に代わる決定)
裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、(中略)金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。


ただし17条決定に対しては、2週間以内であれば異議申し立てができます。

異議申立てが認められると、調停は不成立となります。

民事調停法18条(異議の申立て)
前条の決定に対しては、当事者又は利害関係人は、異議の申立てをすることができる。その期間は、当事者が決定の告知を受けた日から二週間とする。


申立てから調停成立までは、裁判所の込み具合にもよりますが、一般的に2,3か月程度かかります。

東京簡易裁判所の場合は、申立てから調停成立まで4.5ヶ月かかることもあります



特定調停を行うメリットは?

将来利息をカットし、返済計画の見直しが可能

将来利息をカットし、返済計画の見直しが可能

特定調停を行うことで、将来払うべき利息と遅延損害金が免除されます。

元金(と、未払い分の利息)を返済すればよいので、返済負担が大幅に軽減されます。


元金返済も3~5年の分割払いに見直されることが多く、月々の負担を抑えて返済を進めることができます。

利息制限法を超える過払い利息がある場合には、引き直し計算によって借金が減額されます。


これらは任意整理にも共通するメリットです。

任意整理と特定調停の違いについては、「特定調停と任意整理の違いは?分かりやすく解説」で詳しく説明します

他の債務整理に比べて費用が安い

特定調停は他の債務整理と比べると、圧倒的に費用が安いです。

他の債務整理のように弁護士に依頼せず、自力で手続きをするのが一般的だからです。


特定調停では1社あたり500円の収入印紙と、420円の郵便切手が必要です。

郵便切手は追加提出が求められることもありますが、それでも1社あたり1000~2000円程度で済みます。


ちなみに任意整理を弁護士に頼むと、1社あたり2~4万円の着手金がかかります。 

その他にも報酬金や実費などが発生するため、費用を抑えたい人には特定調停がピッタリでしょう。

強制執行を停止できる

特定調停の大きな特徴として、「執行停止の制度」があります。

特定調停の申立てと同時に、強制執行停止の申立てをすることができます。


裁判所が強制執行停止の必要があると判断すれば、給与差し押さえなど既に行われている強制執行がストップします。

これは任意整理にはないメリットです。

特定調停法第7条(民事執行手続の停止)
特定調停に係る事件の係属する裁判所は、事件を特定調停によって解決することが相当であると認める場合において、(中略)特定調停の目的となった権利に関する民事執行の手続の停止を命ずることができる。


調停が成立すれば、停止中だった強制執行は取り消されます

借金の原因は問われず、資格制限もない

自己破産ではギャンブルなどが原因の借金(「免責不許可事由」に当たる借金)は、帳消しにできないことがあります。

特定調停の場合、借金の原因は問われません。


第1回調停期日で、調停委員に借金の原因について聞かれるかもしれませんが、利用の可否には影響ありません。

また自己破産をすると、弁護士や警備員といった一定の資格を利用することが制限されます(「利用制限」)。


特定調停にはこの資格制限がないので、仕事に支障をきたすことはありません。

また自己破産と個人再生のように、官報に名前が掲載される心配もいりません。

債権者を選択できる

自己破産をすれば借金を帳消しにできますが、(20万円以上の)全ての財産を手放さなくてはなりません。

個人再生も大幅に借金を減額できますが、住宅ローン以外の全てのローンが債務整理の対象になります。


特定調停であれば、債務整理を行う債権者を選択できます。

住宅や車など絶対に手放したくないローンは、整理対象から除外することが可能です。


ただし確実に調停を成立させるには、全ての債権者を対象にするのが無難です。

一部の債権者を除外した場合、なぜ自分だけが整理対象なのかと不満を持って、交渉に応じない債権者が出てくる可能性があるからです。

<関連記事>:個人再生とは?分かりやすく解説

仮に一部の債権者を除外した場合でも、その債権者に関する取引履歴などを裁判所に提出する必要があります



特定調停を行う上での注意点とは?

特定調停を行う上での注意点とは?

手続きに手間がかかる

上で見たように、特定調停は自力で行うため、費用が安いというメリットがありました。

これは裏を返せば、その分手間がかかるということです。


書式などは裁判所が教えてくれますが、必要書類を自分で用意するのは非常に面倒です。

それだけでなく申立てと調停のために、最低でも3回裁判所に出向く必要があります。


債権者が多ければ、出廷回数はさらに増えます。

さらに裁判所の出廷期日は平日なので、仕事のスケジュール調整も面倒です。

手続きが長期間に及ぶことも、かなりの負担になります

債権者側が話し合いに応じてくれない場合あり

特定調停はあくまで話し合いなので、法的な強制力がありません。

債務者が申立てても債権者には出廷義務がないため、交渉に応じてくれないことがあります。


上でも触れたように、仮に一部の債権者を除外した場合は、不成立になる可能性がさらに高くなります。

実際、成功率は申立て件数の3%程度と非常に低いです。

調停委員の力量で成果が変わってしまう

債務者と債権者を仲介する調停委員ですが、必ずしも借金問題の専門家とは限りません。

調停委員の力量によっては、将来利息や遅延損害金が免除されないなど、債務者にとって不利な返済内容になる可能性があります。


なかには債務者に対して、高圧的な態度をとるような調停委員もいるようです。

自分が譲れない条件は簡単には折れず、不利な合意に持ち込まれないようにしましょう。

ですが押し通しすぎても逆に却下される可能性があるので、バランスを大切にしてください

事故情報として登録される

全ての債務整理に共通するデメリットですが、特定調停を行うと、信用情報機関に事故情報として登録されます。

今後5年間は、新たに借り入れできなくなります。

クレジットカードを新しく発行したり、新しい住宅ローンを組んだりできなくなるので注意が必要です。



特定調停と任意整理の違いは?分かりやすく解説

特定調停の利用者は大幅に減少

特定調停の利用者は大幅に減少

特定調停の申立て件数は、2004年時点で約38万件でしたが、2010年には約3万件にまで減少しています。

<出典>:特定調停はどのくらいの人が利用していますか?|アディーレ法律事務所


この原因は、特定調停より任意整理を選ぶ人が多いからだと考えられます。

特定調停も任意整理も、将来利息や遅延損害金が免除になる手続きです。


ですが特定調停に比べると、任意整理の方がはるかに使い勝手が良いです。

以下では、特定調停と任意整理の違いについて見ていきます。

<関連記事>:任意整理とは?そのデメリットを分かりやすく解説

取り立てが止まるタイミングが違う

どちらも債権者からの取り立てをストップできますが、タイミングが違います。

特定調停では、裁判所への申立てが完了した時点で、取り立てが止まります。


ですから必要書類を作成している間は、債権者の取り立てが続きます。

一方の任意整理は、弁護士に依頼した時点で、取り立てがストップします。


すぐに取り立てが止まるため、債務者からすると精神的にかなり楽になるはずです。

過払い金返還の可否

特定調停も任意整理も、利息の引き直し計算を行い、債務を再計算します。

もしも過払い金があることが発覚した場合、任意整理であれば、同一手続き内で過払い金請求も行うことができます。


ですが特定調停の場合、過払い金が発覚しても、同一手続き内で請求することができません。

別途、交渉や訴訟をする必要がありますが、複雑な手続きを踏むため自力で行うのは困難です。


弁護士に依頼しなくてはならず、時間的にも金銭的にも非常に効率が悪いです。

結局は弁護士に依頼するのでは、せっかく費用の安い特定調停を選んだ意味がなくなってしまいます

滞納した場合の強制執行の可能性

特定調停が成立すると調停調書が作成され、これに従って返済することになります。

上で見たように、裁判所が17条決定を出す場合がありますが、調停調書も17条決定も確定判決と同等の効力を持ちます。


そのため返済計画を破って滞納してしまうと、強制執行を受ける可能性があります。

法律上は一日でも返済が遅れれば、債権者が強制執行をすることが可能になるのです。


任意整理の場合、調停調書に当たるのが「和解書」です。

ですが和解書には法的拘束力がないので、万が一滞納してもすぐに強制執行を受ける可能性はありません。

家族へのバレやすさ

特定調停は裁判所を介した手続きなので、書類などが直接家に送られてきます。

実家暮らしの人などは、家族にバレやすいので注意が必要です。


任意整理は弁護士に依頼すれば、本人のところに書類が送られてくることはありません。

家族にバレるリスクは、ほぼないと言えます。

<関連記事>:バレない!内緒でキャッシングする方法は?

任意整理であれば、裁判所に出廷する必要もありません

任意整理より特定調停を選ぶべき人とは?

任意整理より特定調停を選ぶべき人とは?

特定調停と任意整理の違いを見てきましたが、特定調停を選ぶ人が少ない理由が分かったと思います。

ですが特定の人にとっては、任意整理より特定調停の方が向いている場合があります。


①とにかく費用を抑えたい人
他の債務整理と比べて特定調停が優れているのは費用の安さです。

自力で行うので手間がかかりますが、その分、弁護士費用を削減できます。


唯一かかるのは1社あたり1000~2000円程度の申立て費用だけなので、とにかく安く済ませたい人にはピッタリの手続きです。


②強制執行を止めたい人
借金の返済だけでなく、給与差し押さえなどの強制執行に悩んでいる人は、特定調停を行うのが良いでしょう。

特定調停には「執行停止の制度」があるため、申立ての際に強制執行の停止を求めることができます。


停止中の強制執行は、調停が成立すれば取り消されるので、負担が大幅に減るはずです。


特定調整と任意整理の違いは、以下の表にまとめました。

費用(1社あたり) 過払い金請求 取り立て
特定調停 1000~2000円程度(自分で行う) 別途必要 申立て完了後に止まる
任意整理 2万~5万円程度
(弁護士に依頼)
同一手続き内で可能 弁護士に依頼した時点で止まる



ここまで、特定調停を行う上で知っておきたいポイントについて見てきました。

利用者が激減している特定調停ですが、費用を抑えたい人などにとっては便利な手続きです。


メリット・デメリットを押さえた上で、他の債務整理と比較しながら利用を検討してみてください。


この記事のまとめ
  • 特定調停は将来利息・遅延損害金をカットした上で、返済計画を見直せる手続き
  • 裁判所を介した手続きで、調停委員が債権者と債務者の仲介をする
  • 自力で行うため手間がかかり、調停が成立しないことも多い
  • 一方の任意整理であれば、過払い金請求もできて取り立てもすぐに止まる
  • 特定調停がオススメなのは、費用を抑えたい人や強制執行を止めたい人


<監修者のコメント>
特定調停の申立には無担保で執行停止ができるなどのメリットもありますが、商工ローンなど定調停に協力しない債権者がいること、過払い金が存在している場合でも調停での解決はされないこと、申立に要する手間、期日に費やす時間、裁判所の調停委員が必ずしも債務整理に習熟していないこと(調停委員には弁護士が含まれていません)などのデメリットも多く、必ずしも多く利用されている制度ではありません。

利用を検討する際は、まずは弁護士の無料相談などを利用し、本当にご自身にこの制度の利用が向いているのかを確認されるとよいでしょう。


もぐお

この記事の執筆者: もぐお

元銀行員で、このサイトの責任者です。難しい金融の情報を分かりやすくお伝えできるよう、頑張ります!
好きな漫画:波よ聞いてくれ
証券外務員・特別会員一種
早稲田大学 政治経済学部 卒業
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