多重債務に陥ってしまい、借金返済に悩んでいる人もいるでしょう。
そんな時、「個人再生」を行えば借金を大幅に減額でき、返済が楽になる可能性があります。
一方でデメリットもあるため、注意点も踏まえた上で利用を検討する必要があります。
ここでは個人再生を行う前に、知っておきたいポイントを解説します。
目次(もくじ)

この記事の監修者: 弁護士 郡司 理
都内法律事務所勤務を経て、2017年に弁護士法人日栄法律事務所共同代表 虎ノ門,池袋,町田にオフィス開設 取扱い分野は建築紛争、労働事件、ハラスメント対応など
個人再生とは?キホンを解説します
個人再生とは、裁判所を通じて借金を減額する手続き
「個人再生」とは、裁判所を通じて借金を大幅に減額できる、債務整理の1つです。
大幅に減額された借金の残りは、事前に計画を立て、3年~5年で分割返済します。
この返済計画を「再生計画」といいます。
再生計画を定めて破産を回避することで、債務者の経済的更生を図ることを目的としています。
個人再生の利用条件は?
個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類があり、利用条件に若干の違いがあります。
どちらにも共通している条件は、「債務総額が5000万円以下」「将来にわたって継続的、または反復して収入があること」の2点です。
民事再生法221条
個人である債務者のうち、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、(中略)この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「小規模個人再生」という。)を行うことを求めることができる。引用元:民事再生法第221条|e-Gov
小規模個人再生の場合は、この2点に加えて、「債権者の2分の1以上の反対がないこと」も条件に含まれます。
ですが現在、銀行や消費者金融などの債権者の反対はほとんどないため、この条件はさほど問題にはなりません。
給与所得者等再生の場合は、債権者の同意は必要ありません。
ですが「債務整理が5000万円以下」「将来にわたって継続的に、または反復して収入があること」の2点に加えて、安定収入が必要条件になります。
安定収入とはサラリーマンの給与所得など、極めて安定した収入のことです。
そのため給与所得者等再生を利用できるのは、原則として会社員や公務員などに限られ、個人事業主などは対象外になります。
以下が、小規模個人再生と給与所得等再生についてまとめた表です。
安定収入 | 債権者の消極的同意 | 借金減額効果 | |
---|---|---|---|
小規模個人再生 | 不要 | 必要 | 高い |
給与所得等再生 | 必要 | 不要 | 低い |
個人再生の手続きで必要な書類は?
個人再生を行うためには、たとえば以下の書類を裁判所に提出する必要があります。
- ・申立書
・陳述書(職業・家族関係・収入・住まいに関する記述)
・債権者一覧表
・財産目録
・源泉徴収票など(収入がわかるもの)
これらは必要書類のほんの一部であり、実際は膨大な数の書類を用意する必要があります。
自分一人で書類を作成・管理するとなると非常に大変ですので、弁護士に依頼するのがオススメです。
必要書類は裁判所によって異なるので、申立ての際には裁判所に確認を取りましょう。
個人再生の流れは?
以下が個人再生の手続きをする際の、大まかな流れになります。
1.申立書類の作成・裁判所へ申立て
上で見たような必要書類を準備します。
小規模個人再生か給与所得者等再生のどちらを選ぶかなどを記載し、裁判所に書類を提出します。
2.個人再生委員と面接
申立て後、裁判所から派遣された個人再生委員との面接が行われます。
借金の理由や金額、返済見込みなどについて質問を受けます。
この面接内容を踏まえた上で、その後裁判所が「個人再生手続き開始決定」を出します。
3.債権評価・再生計画案の提出
再生開始決定に伴い、貸金業者は債権を裁判所に届け出ます。
債務者はその届け出をもとに、返済期間・返済金額・返済方法などを記載した再生計画案を作成し、裁判所に提出します。
4.書面決議
小規模個人再生の場合、再生計画案と議決書が各貸金業者に送られ、書面決議が行われます。
給与所得者等再生の場合は、書面決議はありません。
5.再生計画案の承認・返済開始
債権者の2分の1以上の反対がなく、裁判所にも返済見込みがあると判断されれば、再生計画の承認となります。
翌月から再生計画に沿って返済が開始します。
個人再生を行うメリットは?
借金の大幅な減額が可能
個人再生を行えば、借金を大幅に減額することができます。
どの程度減額できるかは、借入額によって異なります。
小規模個人再生の場合、「最低弁済額」と「所有財産の評価額」のいずれか大きい方の金額が実質返済額になります。
「最低弁済額」とは、債権者が最低限支払う必要がある返済額を指します。
最低弁済額は民事再生法によって、以下のように定められています。
借金額 | 最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 | 全額 |
100万円~500万円以下 | 100万円 |
500万円~1500万円以下 | 借金額の5分の1 |
1500万円~3000万円以下 | 300万円 |
3000万円~5000万円以下 | 借金額の10分の1 |
<出典>:民事再生法第231条|e-Gov
借金が多いほど減額率は高まり、最大で10分の1に減額されます。
一方の「所有財産の評価額」とは、住宅・車・保険など全ての所有財産を現金に換算した金額です。
これを考慮しないと、多額の財産があるのに借金だけを減らすことが可能になってしまいます。
給与所得者等再生の場合は、「最低弁済額」「所有財産の評価額」に加えて、「可処分所得の2年分」を含めた3つのうち、最も大きい金額が実質返済額になります。
「可処分所得」とは、給与所得から税金と必要最低限の生活費を差し引いた額のことです。
大抵の場合、可処分所得の2年分は、最低弁済額よりも高くなります。
したがって小規模個人再生よりも、給与所得者等再生の方が返済額は大きくなります。
そのため給与所得等個人再生を利用する人は非常に少なく、サラリーマンなどでも小規模個人再生を利用する人がほとんどです。
個人再生の減額効果は、他の債務整理と比べてもかなり大きいです。
以下は、4つの債務整理手続きの特徴をまとめた表です。
債務整理の種類 | 借金減額効果 | 裁判所の手続き | 自宅 |
---|---|---|---|
任意整理 | 将来利息のみカット | 不要 | 残せる |
特定調停 | 将来利息のみカット | 必要 | 残せる |
個人再生 | 5分の1程度に減る | 必要 | 残せる |
自己破産 | 全額免除 | 必要 | 残せない |
<出典>:多重債務者相談マニュアル|金融庁
自己破産は個人再生よりも減額効果が高く、借金を全額免除できますが、自宅を手放さなくてならないというデメリットがあります。
任意整理は裁判所の手続きが不要ですが、将来利息をカットするだけで元金を減額することはできません。
住宅ローン特則でマイホームを残せる
自己破産を行えば借金を0円にすることも可能ですが、自宅を手放さなくてはなりません。
個人再生であれば、借金をゼロにはできないものの、自宅を残した上で大幅に減額できます。
本来、個人再生では全ての債権が対象ですが、「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」を利用すれば、住宅ローンを外した上で債務整理ができます。
民事再生法第196条4項
住宅資金特別条項 再生債権者の有する住宅資金貸付債権の全部又は一部を、第百九十九条第一項から第四項までの規定するところにより変更する再生計画の条項をいう。引用元:民事再生法第196条|e-Gov
ただ住宅ローン特則を利用するには、住宅や住宅ローンに関する、数多くの条件を全て満たしている必要があります。
個人再生自体の利用条件と住宅ローン特則の、両方を考慮するのは非常に複雑ですので、弁護士に依頼することをオススメします。
借金の理由は問われない
自己破産は借金を全額免除できますが、「免責不許可事由」に該当する借金はチャラにはなりません。
免責不許可事由とは、借金の免除が認められない理由のことで、たとえばギャンブルや浪費による借金がこれに該当します。
破産法第252条
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
四 浪費又は賭と博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
個人再生であれば、借金の理由は問われないので、ギャンブルによる借金でも利用可能です。
個人再生委員の面接の中で、借金の理由についての質問がありますが、利用の可否には影響ないので安心してください。
貸金業者からの取り立てがストップする
弁護士に依頼した上で手続きを開始すれば、貸金業者からの取り立てがストップします。
これは個人再生に限らず、債務整理全般について言えるメリットです。
直接の督促が来なくなるので、精神的に楽になるはずです。
さらに個人再生では、「個人再生手続き開始決定」が出た後は、債務者が強制執行をすることができなくなります。
すでに強制執行されている場合でも、再生手続きの開始を執行裁判所に伝えれば、強制執行が停止されます。
個人再生を行う上での注意点は?
事故情報として登録される
個人再生を行うと、信用情報機関に事故情報として登録され、今後5年~10年間の借り入れができなくなります。
クレジットカードを新しく発行したり、新しい住宅ローンを組んだりできなくなるので注意が必要です。
また自己破産と同じく、政府発行の機関誌である「官報」に、住所と氏名が掲載されます。
官報をチェックする一般人は少ないため、知り合いに個人再生を知られるリスクは低いでしょうが、人によっては気分が良くないかもしれません。
また官報をチェックするヤミ金業者が存在し、官報の情報を手掛かりに融資の勧誘をしてくる場合があります。
たとえ手元が苦しくても、絶対に相手にしてはいけません。
全ての債権者が対象で、一部のみの返済は不可
個人再生では、住宅ローンを債務整理の対象から外し、自宅を手放さずに済みます。
ただし、それ以外のローンは、全て債務整理の対象となります。
たとえば、車だけは手元に残しておきたいので、カーローンは債務整理の対象から外し優先して返済する、といった方法は認めれられません。
偏りのある再生計画案を提出した場合、申立て自体が棄却される可能性もあるので注意してください。
保証人の返済義務は残る
個人再生を行えば、確かに借主の返済負担を大幅に削減することは可能です。
ですが対象の債務に保証人が付いてる場合、保証人の弁済義務は一切変わりません。
民事再生法第177条2項
再生計画は、別除権者が有する第五十三条第一項に規定する担保権、再生債権者が再生債務者の保証人その他再生債務者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び再生債務者以外の者が再生債権者のために提供した担保に影響を及ぼさない。引用元:民事再生法第177条|e-Gov
たとえば借主(主債務者)に1500万円の借金があり、個人再生を通じて、借金を300万円まで減らせたとします。
この1500万円の借金の内、500万円に保証人による保証が付いていたとすると、借主の借金減額とは別に、保証人は500万円の返済義務を負うことになります。
場合によっては、保証人は500万円の一括返済を求められるかもしれません。
実際は保証人と債権者の交渉によって、分割返済が認められることも多いです。
とはいえ保証人の付いた状態での個人再生は、保証人に迷惑をかける可能性がある点は、十分に気を付けて下さい。
減額されるが返済義務は残る
個人再生を行うと、債務者の借金は大幅に減額します。
しかし自己破産のように完全にゼロになったわけではないので、残りを3年ほどかけて返済する必要があります。
再生計画に沿って、確実に返済することが大切です。
また税金や社会保険は、個人再生を行ったとしても減額されないので注意してください。
住宅ローン特則を利用した場合も、住宅ローンの支払いは従来通りですので気を付けましょう。
万が一、再生計画通りに返済できない場合は?
万が一再生計画通りに返済できない場合、債権者の申し立てによって再生計画が取り消される可能性があります。
再生計画が取り消されると、減額された借金が全て元に戻ってしまいます。
しかし突然のリストラなど、やむを得ない事情が原因であれば、再生計画の変更に応じてくれる場合があります。
再生計画の変更によって返済期間が長くなり、毎回の返済負担が軽減されます。
また4分の3以上の返済を既に終えているのであれば、ハードシップ免責の利用も検討できます。
「ハードシップ免責」とは、再生計画通りの返済が難しくなった債務者について、残りの債務を免除する救済制度です。
4分の3以上の借金を返済していること以外にも、「再生計画を変更しても返済見込みがない」などいくつかの条件を全て満たしている必要があります。
しかしハードローン免責を利用した場合、住宅ローンの債権も免責になるため、住宅ローン特則付きの個人再生であっても自宅を手放さなくてはなりません。
そのため実際に、ハードシップ免責を利用する人はほとんどいません。
<外部の関連サイト>:再生計画の変更とハードシップ免責 | いなげ司法書士・行政書士
自力での手続きは手間がかかる
個人再生は裁判所を介した手続きなので、必要書類が多く利用条件などのチェックも複雑です。
申し立てから手続き完了までは半年程度かかると言われ、仮に自力で行うとなると非常に労力がかかります。
依頼費が発生してしまいますが、やはり弁護士に相談するのがオススメです。
事務処理の手間が省けるだけでなく、債権者からの督促が止まるという利点もあります。
借入状況によっては、債務者に最適な、他の債務整理手続きを提案してくれることもあります。
ここまで、個人再生を行う前に、ぜひ知っておきたいことについて見てきました。
個人再生を行えば借金を大幅に減額できますが、事故情報として残るなど注意点も数多くありました。
借金に困っている人は、デメリットもよく考慮した上で、個人再生を検討してみてください。
この記事のまとめ |
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<監修者のコメント>
自己破産では不都合がある場合(資格制限のある職業の債務者など)や、自己破産に対して本人や周囲の偏見・抵抗が強い場合、自宅を手放したくない場合など、個人再生を選択した方がよい場面は数多くあります。
個人再生の申立てに必要な書類の作成や、住宅ローン特則を利用できない場合があるなど、個人再生の手続は複雑ですので、ご利用を検討される方はぜひ専門家へのご相談をお勧めします。

この記事の執筆者: もぐお
元銀行員で、このサイトの責任者です。難しい金融の情報を分かりやすくお伝えできるよう、頑張ります!
好きな漫画:波よ聞いてくれ
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早稲田大学 政治経済学部 卒業
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