一般社団法人の東京都不動産相続センター(東京都中央区)は、司法書士、税理士、不動産鑑定士、弁護士、不動産コンサルタントでチームを組み、相続と不動産のワンストップサービスを展開しています。
「高齢者が増えて大相続時代を迎える中、士業が連携して個別の案件ごとに相続対策を行うことが求められている」と語る同センターの中島美樹代表理事にお話を伺いました。
一般社団法人東京都不動産相続センターの中島美樹代表理事
目次(もくじ)
相続を想定される財産は約1,000兆円
――「大相続時代」が到来すると言われていますね。
団塊の世代の方々が75歳を迎えて後期高齢者になる「2025年問題」が目前に迫っていますし、2040年には3人に1人が高齢者になると言われ、相続を想定される財産は年間で約50兆円、それが数年続くことを考えると1,000兆円にも及ぶと言われています。
それをどう引き継いでいくかが、これからの日本全体の課題です。
また、お子さんがいないご家庭が増えていく中で、どのように相続をさせていくか、生前に対策している方としていない方では、貧富の差とまでは申しませんが、資産に格差が生じることが予想されます。
高齢者人口及び割合の推移(1950~2040年) 出典 国立社会保障・人口問題研究所の推計に基づく
――兄弟間でもコミュニケーションがとれず、遺産の話し合いがスムーズにできないケースもあると聞きました。
親の世代の方が、ご自身の息子さんや娘さん同士でコミュニケーションを取れていないと感じているようなら、遺言書を残すなどしてスムーズに遺産を引き継ぎやすくする対策が必要です。
たとえば兄がすでに他界し、兄の子ども、つまり甥や姪にあたる方と一緒に相続する事例もありますが、そこで甥や姪と連絡しようと思っても連絡先が分からないこともあります。
兄弟同士では連絡を取り合っていても、一方が亡くなると自然と連絡が途絶える例が増えています。
つねに連絡を取れる関係でいることは簡単ではありませんが、なにかの節目の時に連絡を取ることをお勧めしたいですね。
昨今、正月やお盆休みなどで親族が一堂に会する機会は少なくなりましたが、LINEやFacebookなどのSNSを活用し、連絡先を確保すべきだと思います。
一般社団法人東京都不動産相続センターの設立への思い
――東京都不動産相続センターはどのような理念や思いから設立されたのですか。
相続と不動産に困っているお客様に、専門とする士業が集まって、「相続×不動産」のワンストップサービスで支えたいという想いがあります。
相続というものは人生に何度も経験するものではありませんが、その期間も心穏やかに過ごしてほしいと思っています。
私どもは、亡くなられる方の想い、遺産を引き継ぐ相続人の想いを大切にしています。
相続は十人十色で、家族構成、財産状況そしてご家族の関係性によって提案する内容が変わってきますし、すべての案件に共通する対策を提案することはできません。
相続問題の解決にあたっては、過去の実績を基礎として、個別の案件ごとに対策することが大切です。
同じ士業の方でも、相続を得意とする方、まれに手がける方など様々ですし、とくに税理士の場合は、年間の相続税の申告件数を税理士の数で割ると年間で1を若干超える程度しかありません。
つまり年に1回やるかやらないかわからないわけですから、そのために相続業務を覚え、知識の更新もしていく方は少なく、手慣れていない方も多いわけです。
当センターのメンバーは、法律、税務、不動産に関して豊富な知識を有しており、相続相談件数の実績は4,000件を超えていますので、ご相談者様に適切な提案を行うことができます。
まずお客様から事前に相談内容をうかがって、相続と不動産に精通した司法書士、税理士、不動産鑑定士、弁護士、不動産コンサルタントが複数名体制で相談対応する体制を整えています。
また初回相談料は無料で、その後に遺言書の作成、相続税の申告、家族信託、不動産コンサルティングといった具体的な業務が必要となった段階で窓口を選定し、お見積りを提示の上、ご理解頂いた場合のみ業務を進める流れとなっています。
東京都不動産相続センターの理事のメンバー
相談内容により、取れる対策は本当にさまざま
――士業の連携を大切にしようと思ったのはなぜですか?
当センターに所属している司法書士、税理士、不動産鑑定士、弁護士、相続と不動産コンサルタントたちは、それぞれが個別に相続と不動産の分野に特化した業務を行い、お客様の問題解決に努めてきました。
しかし、それぞれが自分の得意分野で力をもっていても、相続や不動産の分野は法律・税務・不動産の単体の知識だけでは解決できないような難しい問題がたくさんあります。
それぞれの力を合わせて「1+1」が「5」や「10」となり、相続や不動産で困っているお客様の問題解決のお役に立てるように、相続と不動産のワンストップサービスの仕組みを考えました。
たとえば、遺言書を残したいというだけなら司法書士単体で対応できますが、なぜ遺言書を残したいのかと伺って、「先祖代々引き継いだ家を守りたい」「子どもが生活に困らないように資産を残したい」という事情がわかると、取れる対策もさまざま考えられるようになります。
税理士の立場としては、相続税がどれくらいかかるかを試算して説明します。
不動産コンサルタントの立場からは、資産を残すために、不動産を別のものに組み替えることなどを提案します。
円満なご家族では問題ないかもしれませんが、関係性が悪い方もいらっしゃいますので、亡くなった後に弁護士の意見を聞くことも必要になりますし、正しい不動産価値を理解するために不動産鑑定士の力が必要なこともあります。
このように、最初の相談が「遺言書を残したい」であっても、理由を深堀りすることによって、オーダーメイド的に相続対策や問題解決の対策を提案できることが私たちの強みです。
――様々な士業の力が自然に必要になるのですね。
社団法人で連携ができると、スムーズな情報共有が可能になります。
一緒に仕事をすることによって、それぞれがどういうところに注意を払うかということもわかりますので、スピード感をもって、お客様に提案や解決策を提案でき、相続や不動産についてサポートできます。
丁寧なサポートを提供するために、東京の中心にある銀座に軸足をおき、ホスピタリティを意識した独自のサービスを心掛けています。
私たちの「相続×不動産」ワンストップサービスでお客様に喜んでもらいたい、お客様に幸せになってもらいたい、その気持ちを大切に、誠実に真摯に仕事をしていきたいと心から思っています。
――偏っていない、中立的な提案ができるのですか。
当センターは独立系で、大手金融機関などの関連法人ではありませんから、つねにお客様第一に考えた提案が可能です。
不動産や金融商品、保険などでも、メニューが少ないより、選択肢が多いことは強みとなりえますから。
死亡後に貯金を下ろすケースでは後々紛争にも
――中島代表ご自身は、どの部分を担当するのですか。
私は司法書士ですので、主に遺言書作成部分に携わり、亡くなった後の相続手続き全般、不動産の名義変更、ほか預貯金や株の解約も承ります。
――どんなことで揉めるケースが多いのでしょうか。
亡くなった後は口座が凍結されますが、実際には亡くなってから凍結されるまでは預金を下ろせてしまう期間がありますし、改正民法では一定額まで相続人が預貯金を下ろせることになっています。
それが許される関係性のご家庭であればいいのですが、亡くなる前から揉めそうなことがわかっているような場合は、なるべく預金を下ろすのはやめたほうがいいでしょうね。
葬儀費の範囲内で預貯金を下ろすケースもありますが、亡くなった後で、預貯金が急激に減少していると親族から疑いの目で見られてしまい、不信を募らせ、揉めごとの火種になりますので、避けていただきたいです。
もしやむを得ない事情で使ってしまった場合は、何に使ったのかを明確に記し、領収書を保管し、透明にすべきです。
何に使ったか分からないから、遺産分割協議書にはハンコを押したくないと言い出す人もいます。
そのような際には士業や専門家が間に入ることで家族間の摩擦も少し軽減されると思います。
注目される改正相続法のポイントとは
――改正相続法のポイントを教えてください。
改正相続法では、配偶者居住権が新設されました。
これは、配偶者が居住する家を守り、その後に納めるお金や生活費がないことを軽減するために新設された制度です。
始まったばかりの制度ですので、今後どのような紛争事案が発生するかはわかりません。
次に、自筆証書遺言に添付する財産目録をパソコンで作成することが可能になりました。
遺言書を作成する時というのは死が間近に迫っていることが多いので、すべて自筆で財産目録を書かなければならないことは、ハードルが高かったんですね。
全文自筆でなければならなかった財産目録が、コピーやパソコンで作成したものでもOKになったのは、時代の流れを感じますね。
7月10日からは、法務局で自筆証書による遺言書が保管可能になります。
じつは自筆証書遺言が見つからないという問題も、一定数あります。
都内に一戸建てを保有して預貯金があれば、相続税の対象
――改正相続法により、相続税を払う対象者も増えていますね。
東京で一定の家屋を保有し、ちょっとした現金を所有していれば基礎控除を超えるケースに該当します。
物納も難しいので、不動産の組み換えを考える必要が出てきます。
たとえば郊外に広い土地を持っていればそれを売却し、駅から近いマンションに引っ越すといったことも検討の余地があります。
先祖代々の土地を守ることも大事ですが、これからは不動産を組み換え、一部を現金化し納税するケースが増えるのではないでしょうか。
――遺言書の作成そのものは増えているのでしょうか。
遺言書を作成しているのは、死亡者全体の1割程度と言われています。
正式な数はわかりませんが、年間人口死亡者数と裁判所の遺言書検認数を合わせると1割という数字になるのです。
公正証書遺言は、10年前と比較すると1.4倍作成件数が増えていますので、遺言書に関しては、「つくらなければいけない」というマインドになっているように思います。
相続法の改正によって、そのマインドがさらに進展するとみています。
――同族会社の場合も、財産や資産もあり、親族間での引継ぎも大事ですが。
同族会社には契約している顧問税理士がいることが多いですが、その税理士が必ずしも相続に詳しいとは限らず、法人税節税などの能力には長けていても、相続は専門外という税理士は少なくありません。
そういうときは、セカンドオピニオンとして、相続に強い士業の方々に相談されることをお勧めします。
外科と内科のようなものだと言う方もいます。
普段の会社の数字は顧問税理士が内科として見て、それとは別に、外科的な部分は相続領域に強い税理士に任せるわけです。
――事例を紹介いただけますか。
昔は必ず長男がご実家等を引き継いでいましたが、今では、それが適さない場合も増えています。
たとえば、お父さんやお母さんが住んでいる家をこれからどうするか。
今は住んでいるから問題はなくても、介護施設に入るなら現在の預金だけだと不安です。
家族信託によって家を売却する意思を家族のどなたかに授けておき、介護施設に入る段階でご本人が認知症になっていれば、意思を託されたご家族が家を売却して介護施設の資金にあてるという方がいらっしゃいました。
また、働き盛りのビジネスパーソンが相続人になると、忙しい仕事の合間に、預金の解約や戸籍集めなどを全部ご自身でやるのは大変です。
しかも身近な方を亡くした場合は、気持ちも落ち込む中で経験したことがないことをやるわけですから、大変な心労になりますし、何からしたらいいか分からないと思います。
そういうときこそ、当センターを頼ってほしいですね。
――新型コロナ感染症によって、人々のマインドも変化しているでしょうか。
誰もが知っている著名人が新型コロナで亡くなったことで、死というものを身近に感じた方も少なくないようで、相続関係の検索件数が上がっています。
新型コロナに罹ると隔離されてしまいますので、その前に自分に何ができるのかを考える人が多いのではないでしょうか。
5000万円以下の財産で争うケースが全体の3/4
――今後の動向は?
世の中には、うちは財産少ないから大丈夫、うちは仲が良いから大丈夫と思っている人がほとんどだと思います。
でも、裁判所公表のデータを見ると、実際に裁判所で争われている事件のうち、5000万円以下の財産で争うケースは全体の3/4もあり、財産が少ないからこそ生前に対策をしていなかったために揉めてしまう実態があります。
これからの「大相続時代」を見すえて相続対策をするかしないかによって、人生の明暗が分かれるといっても大げさではないと思います。
相続対策には専門家の意見をぜひ聞いてほしいです。
現在、当センターは東京都を中心に、相続や不動産で困っているお客様の問題解決に全力で取り組んでおりますが、今後はグループ企業との連携を強化して、一都三県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に展開を広げていきたいと考えています。
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プロフィール
中島美樹
東京司法書士会 第6545号
簡易裁判所訴訟代理等関係業務認定会員 認定第1101119号
司法書士試験合格後、伊藤塾(株式会社法学館)・司法書士試験科にて、司法書士試験の受験指導の講師を経験。都内司法書士法人で登記業務に従事し、その後独立開業。相続手続きや不動産登記、会社設立等、多様な案件に対応。4000件もの相続相談を受けてきたプロフェッショナルが集まる、一般社団法人東京都不動産相続センターの代表理事を務める。
団体名: 一般社団法人東京都不動産相続センター
所在地:〒104-0061 東京都中央区銀座1丁目18番6号 井門銀座一丁目ビル3階
営業時間:9時~19時 土日祝祭日休
代表理事 中島美樹(司法書士)
代表理事 佐藤良久(不動産コンサルタント)
理事 大塚英司(税理士)
理事 西原崇(不動産鑑定士)
理事 丸山純平(弁護士)
ホームページ: https://fudosan-sozoku.or.jp/
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取材日:2020年6月22日