IFAは証券界のランボーだ!〜独立系金融アドバイザー 山上秀樹氏インタビュー~

独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)山上秀樹氏
独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)山上秀樹氏


新型コロナウイルス感染症の影響によって対面営業中心の大手証券会社が苦戦する一方で、投資に興味を持っていた資産運用初心者によるネット系証券の新規口座開設が相次いでいる。

金融商品売買の仲介も行える新しい金融商品の購買チャネルともなる、独立系資産運用アドバイザーIFAのひとり、山上秀樹氏にお話を伺った。



運命的な配属から始まった証券人生


――当初、大手証券会社に入られた経緯を教えてください。

大学2年生の時に、ある雑誌で「この銘柄が儲かる」という記事を読んだのが、株式を知ったキッカケです。

たまたまアルバイトで稼いだお金が15万円あり、株を購入しようと思いましたが、当時は安く買える株はほとんどなく、なんとか買えそうな株は東京電力で、親に借金をして100株買い、30万円から45万円に上がって15万円もうかりました。


大学卒業するころにはそれが80万円ほどになり、ちょうどNTT株上場1年前で時代も良かったのでしょうけれど、すっかり株式投資の虜になりました。

大学は工学部機械工学科で、エンジニアを目指していました。


バブル当時、証券会社もシステムを開発する工学部出身の理系を必要としていました。

当時私は、日興証券営業部長がモデルの『小説兜町』『兜町物語』(清水一行)を愛読していて、熱い生き方に共鳴して日興証券への入社を決めました。


配属の際、システムセンターと営業職を提示され、理系は普通システムセンターを希望するのですが、ファンドマネージャーになりたくて営業部を志望しました。

会社側は「理系だからいつまでも営業に置いておくつもりはないよ」と言っていましたが、結局、退職するまでずっと営業にいました(笑)。


本社講堂で一人ひとりが「〇〇君 本店営業部」と新人配属の辞令を伝えられるのですが、私が告げられたのは『小説兜町』の舞台である兜町支店営業課で、まさに運命的な配属だと感じました。


兜町支店は魑魅魍魎の人が跳梁跋扈している世界だろうなと想像していましたが、当時の支店長は人格者で、深夜まで働く超ブラックな証券業界にあって、「6時には仕事を終えて帰りなさい」と言う人でした。

その支店長の教えは、「お金持ちであろうが、貧乏で生まれようが時間だけは平等なんだ。だから時間だけは大切にしなさい」というものでした。


清水一行の『小説兜町』に憧れて、日興証券に入社
清水一行の『小説兜町』に憧れて、日興証券に入社


その兜町支店で5年半、その後豊橋支店4年半、銀座支店1年半と個人営業を続けながら、平成バブル崩壊、Win95・半導体ブーム、アジア通貨危機等株価の乱高下を見てきました。

証券会社の営業マンである以上、相場の良し悪しに関わらず株式売買の手数料、投資信託の販売ノルマは毎日追いかけてきます。


そしてそのつけはどうしてもお世話になっている顧客に及びます。

そうやってお世話になった顧客に迷惑をかけ、また会社命令の転勤により不義理のまま縁が切れていく、そのような仕事に耐えがたい思いを抱いていた時、会社からほぼ歩合制で自由に営業できる第三営業部という部署が新設されると聞きました。


当時、山一証券や三洋証券の破綻があり、日興証券も苦境を迎えていました。

新設される部署はリストラの受け皿なのかと思いましたが、一部30代の営業マンにも門戸が開かれるとのことで、私は役員面接等のセレクションに合格し、日興証券の指示を受けない立場で営業活動する第三営業部に移籍しました。

そしてそれが「IFA」の源流になっていくことになります。



証券会社の軍隊から傭兵にジョブチェンジ


――「IFA」とは何なのでしょうか。

IFAは2002年に創設された独立系金融アドバイザーのことで、証券会社のノルマや転勤もなく、自分の考えのもとで顧客に合う金融商品を提案できる立場です。

2002年9月、私は日興コーディアル証券(当時)を退職して、日興コーディアル証券と委任契約を結んでIFAとなりました。


これまでは日興証券という軍隊に属し、兵隊として働いていた立場から、社員ではなく独立して自由に金融のアドバイスを顧客に提案するIFAになったわけです。

そして、SMBC日興証券が数年前にIFA制度を廃止すると決定したのをきっかけに、SBI証券・楽天証券と業務委任契約を結ぶ金融商品仲介業者 株式会社Fanと新たに契約し現在もIFAとして活動しています


大手証券会社の営業部隊が上司の命令に絶対服従が原則の正規軍隊とするなら、IFAは自分の考えで行動できる、いわば証券界の傭兵で、映画に出てくる『ランボー』のような存在だと思っています。


――どのような仕組みですか?

顧客にSBI証券か楽天証券で口座をつくってもらい、IFAは顧客に金融商品の売買のアドバイスをします

顧客は証券会社に手数料を支払いますが、証券会社はその手数料の一部をIFAに支払う、という仕組みになります。
IFAのイメージ図
IFAのイメージ図



勝ちを目指すのか、負けないを目指すのか


――IFAとしてのポリシー、理念などを教えてください。

効用曲線というものがあり、横軸が儲かった、損したお金を示し、縦軸は喜び・悲しみをそれぞれ表しています。

効用曲線(山上秀樹氏作成)
効用曲線(山上秀樹氏作成)


これは2002年にノーベル経済学賞を受賞した、行動経済学者のダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏が「プロスペクト理論」として提唱した理論の中枢をなすもので、人間は1万円をもうけた時の喜びより1万円を失った時の悲しみの方が大きく感じると言われており、一般的に2~2.5倍の差があると言われています。


人は勝つよりも負ける方がつらいので、負けない金融商品をチョイスしがちですから、政府がいくら「貯蓄から投資へ」と旗を振っても預貯金が減らないのは「プロスペクト理論」に沿った行動なのです。


ここ10年ほどの傾向では投資をする人も増えていますが、それでも、負けないための「インデックス投資」をチョイスする人が多いんです。

一方で、起業家や、人生で勝ち続けたような人など、個別株を狙い、勝ちを目指す投資家もいます。


ですから投資の方針では、「勝ちを目指すのか、負けないを目指すのか」で変わってくるわけです。

最近の投資の世界では「うまい話はない」という考えが支配的で、「インデックス投資」志向が強いのですが、株式市場では、見落とされがちな「うまい話」が存在するのではと思っている投資家も少なくありません。


ただ、多くの投資家が「うまい話」を探そうとすると、「うまい話」はなくなってしまいます。

その逆に皆が「うまい話」などないと思って「インデックスファンド」ばかりを買うと、「うまい話」は見逃されて、そのチャンスを得られるかもしれません。



武器としての証券アナリスト


――その「うまい話」は、どこにあるのでしょう?

ソニーやトヨタ自動車等の有名企業は多くのアナリストが業績を予想しており、売買も盛んです。

実際、調べつくされていますので、株式市場的に「うまい話」を探すのは困難でしょう。


ところが最近では証券アナリストも減っていますから、時価総額が少ない東証二部や東証マザーズの会社を調べる余地が少なくなってきているように思えます。

そこで、時価総額の少ない企業に「うまい話」が隠されている可能性は相対的に高いと考えています


私は日本証券アナリスト協会検定会員の資格を保有しており、興味のある企業についてはできるだけ、検定会員限定の企業決算説明会に参加するようにしています。

説明会で企業経営者の方々と名刺交換をするときも、勢いのある会社の社長は自信に満ちた顔色をしていますが、業績が悪化している企業の社長は顔に勢いがありません。


決算の中身の詳細を分析するのは言うに及びませんが、決算短信に表れない、生きた情報を獲得することも証券アナリスト資格を持つIFAである私の武器だと考えています



株は余裕資金でという本当の意味


――株の投資は余裕資金でやるべきと言われますが。

一般のビジネスパーソンにとっての余裕資金は、「課長に昇進する」「ボーナスが予想以上に上がった」「給料が上がった」といった時に生じることが多いのではないでしょうか。

しかし、そのような景気がいいときは株は高く、そういうときに株を買おうとすると、高値で買ってしまうことになりがちです。


大事なのは、買う人の都合と市場の動向の両方を考えることです。

マーケットが低調で株が安くても、買う人の都合が悪ければ買ってはいけませんし、余裕資金があってもマーケットが異常に高騰していれば買うべきではありません。


この図は、投資政策のプロセスを描いたものですが、自分と市場の都合の両面を考えて投資戦略を構築することが必要です。


投資政策のプロセス(山上秀樹氏作成)
投資政策のプロセス(山上秀樹氏作成)


巷よくある投資本を読めば投資の知識は増えるかもしれませんが、それだけでは儲けることはできません。

本当に必要なのは、文字で表現することのできない知恵なのだと思います。


株式投資で失敗した経験、その際に学んだことなどが必要で、投資本だけでは知恵を培うことはできません。

私たちのようなIFAは知識に加え、培ってきた知恵や経験をもとに顧客にアドバイスすることを心がけています



アフターコロナ時代の市場はどうなる?


――コロナショックによって投資のタイミングを見きわめることは難しくなっているのでは。

ウィズコロナ、アフターコロナの動向は、機関投資家も皆さん悩んでいます。

不確定要素が多いため、つねに状況をウォッチして最新情報を得る必要があります。


新型コロナウイルス以前の市場も、世界的な金融緩和による米国の一部プラットフォーム事業会社を中心としたバブルと考えていましたが、ウィズコロナによって更なる金融緩和・財政出動によりそのバブルは強化されていると見ています。

実態としては2000年のITバブルに似ており、これからの投資家はITバブル崩壊の教訓を常に意識しておくべきだと思います。


リーマン・ショックの際の日経平均は、2007年3月2日に18,300円でしたが、その後の最安値は2008年10月28日に6,994円まで下落しており、下落率は62%です。

今回のコロナショックは、世界恐慌以来の不況に襲われていると言われています。


今年1月17日の日経平均は2万4,115円、最安値は、3月19日の1万6,358円で、下落率は32%です。

コロナショックの下落率は今のところ32%ですが、史上最大規模の金融・財政政策によって膨らんだマネーバブルは史上最大の金融危機を起こす可能性を否定できません。


この数年は特に注意が必要だと思っています

台湾をめぐる米中対立の深刻化、イギリスのEU離脱によるEUの不安定化など、反グローバル化が台頭しています。


どこの国も自国中心にシフトしていることで、ブロック経済化の流れがあります。

各国が大幅に財政赤字を増やしていることを考えると、このコロナ下で焼け太りとなっているプラットフォーマー企業に対するデジタル課税の圧力も大きくなると考えられます


また日本での自粛活動を見ると、都心部の土地が下落する可能性があります。

都心に人が移動しなくなると外食産業もデベロッパーも困り、都心の地価が下がるとREIT(不動産投資信託)の価格も下がるでしょう。


金融機関について言及すると、メガバンクは比較的余裕があるように見えますが、企業破綻が続けば地方金融機関の動向は要注意です。


証券アナリスト協会が入居するビル
証券アナリスト協会が入居するビル


今、ほんのわずかな動きが連鎖的に大きなクラッシュにつながるバタフライ効果に気を配るべきで、資産運用に関しては潜んでいるリスクには要注意です。

負けない投資を目指して行う「インデックス投資」の前提は、世界が成長するということでしたが、この前提のままで投資を続けるのは私は危険だと考えています。


投資のタイプについては、どちらがベストかは断言できません

その人の生き方によると思っています。

お金持ちではあるけれど成功者でない方、たとえばたまたま親の相続で東京の土地を保有している人は、勝ちを目指すより負けない投資を目指すことが多い気がします。


私の顧客の中には、イチから起業して上場会社のオーナーになった成功者もいますが、その人は「インデックスファンド」にはまったく関心を寄せず、個別株で徹底的に勝負するタイプです。




――最後に株式投資のプロフェッショナルとしてひとことお願いします。

まずは自分の限界を知ることだと思っています。

顧客に「絶対に儲かります」とは言えません。


どういうことができて、どこまで判断できるのか、何がわかっていて何がわからないのか、その限界を理解していることが絶対的な条件です。

そしてさらに、その自分の限界を広げる努力を怠らないことです。

常にそのような本当のプロフェッショナルなIFAでありたいと思っています。


FPジャーナル2014年4月号に掲載された山上氏の寄稿文
FPジャーナル2014年4月号に掲載された山上氏の寄稿文

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プロフィール

山上秀樹(やまがみ ひでき)
独立系ファイナンシャルアドバイザー Independent Financial Advisor
大阪府堺市出身、1965年(昭和40年)生
1988年3月 関西大学工学部機械工学科卒業
1988年4月 日興證券株式会社入社 兜町支店営業課配属
1993年2月 豊橋支店営業課へ異動
1997年8月 銀座支店営業課へ異動
1999年3月 契約社員として第三営業部に移籍
2002年9月 日興コーディアル証券を退職
2002年9月 日興コーディアル証券と委任契約を結びIFAとなる
2016年6月 SMBC日興証券と委任契約を解消
2016年7月 金融商品仲介業者株式会社Fanに所属するIFAとして現在に至る

社名: 株式会社Fan 東京本店
所在地: 東京都千代田区丸の内3-1-1 国際ビル2F 投資信託相談プラザFan
【所属金融商品取引業者】株式会社SBI証券、楽天証券株式会社
【保有資格】証券外務員(1988年7月15日取得)、日本ファイナンシャルプランナーズ協会認定CFP®(2002年10月取得)、ファイナンシャル・プランニング技能士1級(2003年1月取得)、日本証券アナリスト協会検定会員CMA(2004年8月取得)
業務: 個人投資家の資産運用相談からアドバイス、実際の購入手続き、その後の管理まで一貫して行う。
HP: https://www.hyamagami.com/
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取材日:2020年5月13日