高齢社会を反映し、メディアでは相続や終活の特集が組まれ、同様のテーマでのセミナーも数多い中、相続や終活のプロとして存在感を高めているのが相続・終活コンサルタントでセミナー講師の明石久美氏。
講師歴15年で豊富な実績をもつため「参考になる」との声も高く、供養業界にも精通して葬儀、墓、遺品整理などにも詳しく、相続と終活について総合的に話せる貴重なセミナー講師としても知られています。
行政書士、ファイナンシャル・プランナー(CFP/1級)、葬祭アドバイザー、消費生活アドバイザーなど多くの肩書を持つ明石代表に話を伺いました。
明石久美氏(明石シニアコンサルティング/明石行政書士事務所代表)
相続や終活のトップランナーFP&行政書士
――明石さんが相続・終活関係を専門にされたきっかけは?
この仕事を始めた当初、ファイナンシャル・プランナー(FP)として子どもの金銭教育、ライフプラン、株式投資、生命保険などの相談やセミナーを行っていました。
それからすぐにFPの上級資格(CFP)を取得したのですが、相続が苦手で、どこかで勉強できることはないかしらと金銭教育を行っている先輩に相談したところ、私が住んでいる松戸市の隣、柏市に勉強できるNPOを教えてもらいました。
そこには独立系の士業(司法書士、税理士、行政書士、社労士など)の先生が多かったのですが、さくっとなじめ、そのうえ知れば知るほど「相続、めちゃくちゃ面白い!」ということで、相続にはまったんです。
私の身内が葬儀社のため葬儀知識があったので、それなら相続も葬儀も両方取り扱えば、死亡したときの対策もできるとワンストップサービスを始めたら、同時期に「終活」という言葉が登場したのです。
――どういう方がご相談にお見えになりますか。
私のところに相談にいらっしゃるのは、おひとりさまや、お子さんのいらっしゃらないご夫婦が大半です。
いずれも現実的には身内に頼れない方が多く、自分が亡くなったときのことや、認知症や身体が不自由になったときのこと、そして遺産についての相談がほとんどです。
ですので、本人の支援が必要な時に私が支援する依頼(見守り契約、任意代理契約、任意後見契約、死後事務委任契約、遺言書などの作成と受任)のほか、家族信託契約書の作成や相続手続きなどの依頼が多いです。
明石氏が講師を務めた地方自治体主催の終活セミナーの模様
――たとえば、お子さんがいないご家庭で、長年連れ添った奥さんに一旦全財産を譲ったあと、先祖代々の土地を自分の甥にということは可能なのでしょうか。
家族信託契約を利用すれば可能です。
先に、通常よく作成される夫婦の遺言書の話から説明します。
ご本人が亡くなった後に財産をどうするかという指定は、遺言書で行います。
一般的には、夫の全財産を妻に、妻の全財産を夫に相続させる遺言書を配偶者相互で作成します。
配偶者同士のうちどちらが先に亡くなるかは分かりませんから、お互いに全財産を相続させるわけです。
その際に片方の配偶者が亡くなり、最後のひとりになった場合に、遺産をどうするかということ決めなければなりません。
これはお互い話し合って、決めてもらいます。
たとえば残った財産は、夫の甥に半分、妻の姪に半分とする方もいますし、どこかの団体に寄付するという方もいます。
しかし夫が亡くなったあとに妻が遺言書を書き直し、自分の親族のみへ相続させることができてしまう現実があります。
そこで登場するのが、家族信託契約です。
遺言書では「自分の財産を妻に」というように、自分の財産をどうするかということまでしか決められませんが、家族信託なら、「自分の財産を妻に、妻が死亡したら甥に」といった先の指定まで可能になります。
「家族信託」は民事信託のため、親族に財産を託し、管理してもらうものです。
この場合、金銭と自宅を信託財産として、甥に託す契約を公証役場で作成します。
そして夫が生きている間は夫のために甥が財産管理し、夫が亡くなったら妻のために、妻がなくなったら甥へとしておけば、残った金銭と自宅を甥に渡すことができます。
しかし全財産を信託することは現実的にできないので、遺言書の作成も必要です。
信託できない財産もありますし、信託契約後の収入などは信託財産ではないため、夫の信託財産以外の財産と、妻自身の財産をどうするのかについて、別途遺言書で指定しておかなければなりません。
「最後のおひとりさま」になったら、どうすればいいか
――子どものいない夫婦は、いつかおひとりさまになるわけですが、葬儀、遺品整理はどうすればいいのでしょうか。
ご夫婦ふたりの生活で、片方の配偶者が亡くなれば、おひとりさまとなり、そのおひとりさまも亡くなると、誰が葬儀を執り行うのか心配される方は多いですね。
ご本人が亡くなった後には、葬儀だけではなく、納骨や遺品整理、その他役所での諸手続きなど、なすべきことは数多くあります。
甥や姪などの親族と普段から仲が良く、コミュニケーションもしっかりとっている関係ができていれば、葬儀やその他のことをやってくれるかもしれません。
しかし家族や親族など頼れる身内がいない場合には、これらを誰かに頼んでおかなければなりません。
もしやってくれる人がいない場合には、「死後事務委任契約」で依頼しておく方法があります。
私の場合、「死後事務委任契約」を結んだお客様には、どういう葬儀を希望するか、お墓の有無などの詳細を伺っています。
場合によっては「墓じまい」を事前に行いたいとか、自分が亡くなったあとに行ってほしいなどの話もでてきますし、「散骨でお願いします」というお客様もいらっしゃいます。
私は葬儀や墓、遺品整理などの業界に友達が多いので、様々な希望に沿うことができます。
老後に向けて検討すべき5つの契約
――老後に向けて、ほかにはどんな契約を結ぶ必要がありますか。
自分が認知症になってしまったり、老後に身体が不自由になって日常生活に差しさわりが出たときの契約もあると安心です。
依頼を検討しておきたい委任契約と遺言書を整理すると、この5点です。
依頼を検討しておきたい委任契約と遺言書 |
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どれを依頼するのかは本人の自由ですが、認知症になってしまう可能性があるので、生前の契約は「3.任意後見契約」にプラスして「1.見守り契約」や「2.任意代理契約」を結ぶ必要があります。
しかしこれらすべての契約を作成したとしても、「1.見守り契約」と「2.任意代理契約」は、本人が依頼者に実行支援を依頼したときからスタートするようにしておくため、場合によっては契約しておいても利用しないで終わる場合もあります。
もちろん、認知症など判断力が低下しなければ「3.任意後見契約」も利用しません。
しかし認知症などになってしまったときには、依頼者が後見人になるためスタートさせます。
そのため、老後を安心して生活したいから契約をしておき、イザというときに備えておきたいという方も多いです。
委任契約と遺言書はワンストップで依頼を検討しておくべき
誰と契約をするかが大事
――おひとりさまがこうした契約や書類作成をする上で注意する点はありますか。
もし「遺言書」と「死後事務委任契約」を依頼するなら、同じ人に依頼したほうが、行ってもらう側も行う側も負担が伴いません。
たとえば「遺言書」は信託銀行へ依頼しているから、「死後事務委任契約」は専門家に依頼したいといっても、専門家は受けてくれない場合があります。
受けてくれたとしても、事前に預けるお金が多くなってしまいます。
ご本人が亡くなると、依頼されている人は葬儀を執り行い、そのあと納骨や遺品整理業者の手配などを行っていきます。
しかしこれらには、費用がかかります。
すべて立て替えるわけにはいきませんので、契約後に「預り金」をいただくわけですが、同じ人が遺言執行も行うのであれば、最終的に清算できるため「預り金」は多くなくても大丈夫です。
しかし信託銀行で作成された遺言書の執行者に、費用等の支払い依頼をしても、すぐに支払ってもらえるとは限りません。
となると、かかる費用や報酬分の「預り金」を多くいただく、といった具合になる訳です。
――そのほかの注意点はあるのでしょうか
生前のことをお願いする契約をしたといっても、依頼された人は本人の日常生活が快適に運ぶようにしなければならない訳ではありません。
毎朝リンゴを食べたいから定期的に届けてほしいと言われても、それは難しいわけです。
そもそも契約外の行為を受け入れるかどうかは、行う人しだいだからです。
私は契約する人とは長い付き合いになるので、なるべく相手の意向を汲めるように、オリジナルのエンディングノートのようなものに、本人の事実情報や嗜好などを書いてもらっています。
必ず行えるとは限りませんが、施設に働きかけたり、様子を見に行く際に配慮できたり、何かしらできることがあるかもしれないからです。
――こうして見ると歳を取ると用意すべき点はたくさんありますね。
よく、エンディングノートで残すべき情報を整理する必要があると言われますが、私は次のような情報が後に残された人向けに役に立つと考えています。
残された人向けに役に立つ情報 |
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明石氏は相続・終活関係で多くの本を精力的に執筆している
――こうして整理されれば、エンディングノートもまとめやすいですね。
専門家へ契約などで依頼する場合、本人の事実情報は役立ちます。
専門家は要望を汲めるかわかりませんが、ご夫婦同士なら可能なので、お互い確認しておくといいですね。
今後増えると予測できるのは、デジタル遺品の問題です。
ネットで取引をし、ネットで明細を確認するこのご時世ですから、本人以外は取引が把握しにくいのです。
パソコンは最悪、業者にロックを解除してもらえばいいのですが、スマートフォンはどうにもなりません。
本人が、中を見ないで処分してほしいと言っても、取引がわからないからこそ確認せざるをえないのです。
様々な金融機関のアプリを利用していることもありますから、デジタル遺品問題と遺産相続は切っても切れない問題です。
私のお客様は年配の方が多いので、デジタル遺品問題はそれほど深刻化していませんが、エンディングノートにデジタル遺品の情報も含めて残していくことが肝要です。
相続・終活ではなんでも聞いてください
――お客様に対して心がけていることは?
そもそも相続関係のお話は堅いうえに、説明する人が固ければわかりにくいし、かしこまってしまうし、肩が凝ってしまいます。
ですので、基本的になるべく明るく、くだけた感じで接しています。
15年もセミナー講師を行っているので、その調子で受け答えするから堅苦しさがないのかもしれませんね。
他の専門家へつなぐ際にお客様をお連れすると、会うのが2回目でも、その先生に「前からの知り合いですか?」と言われるくらい、お客様も馴染んでくださっています。
やわらかく、「なんでも聞いてください」という姿勢で臨めば、お客様からいろんな情報をいただけます。
話しているうちに、お客様も「あ、そういえばね」と思い出されることも多いんです。
またお客様の側でできることがあれば、わざわざ専門家に費用を支払わなくてもよいというスタンスなので、「先生、儲ける気がないんですか」と驚かれることもあります。
――セミナーはどこでやっているのですか?
セミナーは、全国で行っています。
呼ばれてそこに行って話をしています。
銀行、証券会社、保険・共済会社、不動産会社、市役所や社会福祉協議会、医療機関、大学、OB会、任意団体などのお客様(市民・会員)向けセミナーや、社員研修など、一般向けから専門職向けまで行っています。
セミナーや研修は年間100件程度行っており、リピートもかなり多いんです。
規模は、数十人程度の勉強会から、数百人のイベントでの講演会などいろいろです。
明るくテンポよく、具体例を入れて話をするので、受講者の方には「わかりやすかった」「ためになった」「もっと早く知りたかった」「おもしろかった」という声をいただきます。
おひとりさま、エンディングノート、成年後見、遺言書、家族信託、相続手続き、葬儀、墓などの話ができるため、「今からどのような準備をすればよいか」という全体的な話から、個々の掘り下げた話まで、依頼はさまざまです。
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名称: 明石シニアコンサルティング / 明石行政書士事務所
代表者 明石 久美(あかし ひさみ)
<プロフィール>
千葉県松戸市在住。趣味は神社仏閣巡りと温泉巡り。
相続・終活コンサルタント、セミナー講師、行政書士、ファイナンシャル・プランナー(CFP/1級)、葬祭アドバイザー、消費生活アドバイザー、筆跡アドバイザー、温泉ソムリエ 他
供養関係の知識があることから、「葬儀や墓、相続などを含めた全体的な死亡前後の準備・対策」が話せる講師として、全国からセミナーや研修の依頼を受け行っている。また、相続や終活の総合的な窓口となり、遺言書作成、家族信託契約書作成、相続手続きのほか、おひとりさまや子どもがいないご夫婦のコンサルティングや委任契約の受任を行っている。そのほか、テレビやラジオの出演、新聞や週刊誌などへのコメント、新聞コラムの執筆、雑誌や業界誌等の執筆、一般向け書籍執筆や保険・金融融機関向けの教材作成も多数手がけている。
住所: 〒270-2241 千葉県松戸市松戸新田373 ガーデンビレッジ101
Email: akashi@senior-consul.jp TEL:047-703-7869
ホームページ: 相続・終活・老い支度相談所
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取材日:2020年4月3日